- 2022年5月17日
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株式会社ニコンは2026年9月8日、映像制作用レンズシリーズ「NIKKOR Z CINEMA T1.9 VV」計9本の開発を発表した。
同時に、Z CINEMAシリーズのフルサイズセンサー搭載シネマカメラ「Nikon ZR」についても、ファームウェアVer.2.00の開発を発表。H.265収録時の「Log3G10」「REDWideGamutRGB」対応をはじめ、R3D NE記録時のフォーカスピーキング、RED CONTROLによるリモート操作など、REDとの連携をさらに強化する。
さらに2027年には、ZRへのオープンゲート記録やアナモルフィックレンズ向けデスクイーズ表示の追加も予定されている。
2024年にニコンがRED Digital Cinemaを子会社化して以降、両社の技術融合は段階的に進められてきた。
今回の発表は、REDのカラーサイエンスをNikonカメラへ導入するという段階から一歩進み、カメラ、レンズ、RAW、カラー、リモートコントロールまでを一つの制作システムとして統合していく動きが本格化したものと見ることができる。

ニコンが今回発表したのは、映像制作向けの新しいシネマレンズシリーズ「NIKKOR Z CINEMA T1.9 VV」。
同シリーズでは「NIKKOR Z CINEMA 50mm T1.9 VV」を含め、合計9本のレンズを展開する予定としている。
名称にある「T1.9」は、写真用レンズで一般的なF値ではなく、実際にレンズを通過する光量を基準としたT値を示す。
映画やCM、ドラマなど複数のレンズを交換しながら撮影する現場では、レンズごとの透過光量を揃えやすいT値表記が広く採用されている。
Nikonはこれまで、Zマウント向けに高性能な写真・動画兼用レンズを多数展開してきたが、本格的なシネマ制作を前提としたNIKKORブランドのレンズ群を構築することで、Z CINEMAのシステムをさらに拡張する。
今回の9本というラインアップ数からも、単発的なレンズ投入ではなく、プロフェッショナル向けシステムとして展開する狙いが見える。
「NIKKOR Z CINEMA T1.9 VV」の大きな特徴となるのが、高精度なオートフォーカス機構を搭載する予定であることだ。
映画やドラマ制作で使用される一般的なシネマレンズでは、フォーカスプラーがワイヤレスフォローフォーカスなどを使用し、マニュアルでピントを送る運用が現在も主流だ。
一方、近年は映像制作のスタイルそのものが大きく変化している。
少人数による映像制作やドキュメンタリー、ウェディング、イベント、YouTube、企業映像、ジンバル撮影などでは、一人のカメラマンが撮影からフォーカス操作まで担当するケースも多い。
このような環境では、被写体認識を活用した高性能AFが撮影効率を大きく左右する。
Nikonはミラーレスカメラ「Z9」や「Z8」などで高度な被写体検出AFを展開してきた。
その技術が本格的なシネマレンズにも組み込まれるのであれば、従来のシネマレンズとは異なる運用方法が可能になる。
特にジンバルやドローン、車載、ステディカム、小規模撮影チームでは、AF対応シネマレンズの恩恵は大きい。

もう一つ重要なのがイメージサークルだ。
「NIKKOR Z CINEMA T1.9 VV」は、NIKKORレンズとして初めてRED Digital Cinema「V-RAPTOR [X]」に搭載されている40.96×21.60mmのVVセンサーをカバーする。
一般的なフルサイズセンサーは約36×24mm。
V-RAPTOR [X]に搭載されるVVセンサーはそれとは異なる大型フォーマットであり、シネマ制作を前提とした広いイメージサークルが必要になる。
そのVVセンサーをカバーする設計をNIKKORに採用するということは、今回のレンズシリーズがNikon ZRだけをターゲットとしたものではないことを意味する。
つまりNikonは、Zマウントカメラの延長線上にシネマレンズを追加するのではなく、REDのハイエンドシネマカメラを含めた共通レンズシステムを視野に入れていると考えられる。
この点は、NikonによるRED買収後の製品戦略を見るうえでも非常に重要だ。
2024年にNikonがRED Digital Cinemaを子会社化した際、大きく注目されたのが両社の技術をどのように融合するのかという点だった。
Nikonは長年にわたってカメラ、レンズ、光学技術を蓄積してきたメーカーだ。
一方のREDは、デジタルシネマカメラ市場においてRED RAWや独自のカラーサイエンスを確立してきた。
両社が持つ強みは大きく異なる。
だからこそNikonがREDを傘下に収めたことで、
Nikonの光学技術・AF技術
と、
REDのRAW・カラーサイエンス・シネマ制作ノウハウ
が一つのシステムへ統合される可能性が生まれた。
今回のNIKKOR Z CINEMAは、その融合がレンズ領域まで広がったことを示している。

NikonはNIKKOR Z CINEMAと同時に、シネマカメラ「Nikon ZR」のファームウェアVer.2.00を開発していることも発表した。
今回のアップデートでは、特にREDとのカラー・撮影ワークフローの統合が進められる。
主な内容として予定されているのが、
・H.265でLog3G10に対応
・REDWideGamutRGBに対応
・H.265 Log撮影時のノイズ低減設定
・R3D NE記録時のフォーカスピーキング
・RED CONTROL/RED CONTROL PROへの対応
などだ。
ZRはすでにR3D NEを利用できるが、Ver.2.00ではRAW撮影だけでなく、より軽量なH.265収録でもREDのカラー環境を利用できるようになる。

今回のアップデートで特に注目したいのが、「REDWideGamutRGB」への対応だ。
REDWideGamutRGBは、REDがカラーグレーディングワークフローで採用している広色域の色空間。
Log3G10と組み合わせることで、撮影時に記録した広いダイナミックレンジと色情報を保持しながら、ポストプロダクションで柔軟なカラー調整を行うことができる。
これまでZRでREDのワークフローを本格的に使用する場合、R3D NEが中心となっていた。
一方、RAWは非常に高い編集耐性を持つ反面、データ容量が大きくなる。
撮影内容によっては必ずしもRAWが必要とは限らない。
H.265でもLog3G10/REDWideGamutRGBを利用できれば、データ量を抑えながらRED系のカラー環境へ統一できる。
これは実制作では非常に大きな意味を持つ。
例えば数時間にわたるライブイベントやドキュメンタリー、企業映像、インタビュー撮影などでは、RAW収録によるデータ容量が運用上の負担になる場合がある。
撮影後のバックアップ時間やストレージ容量、編集環境まで含めると、必ずしも最高画質のRAWが最適とは限らない。
そこでH.265 Logを使用しながらREDWideGamutRGBを利用できれば、
軽量な収録フォーマットとREDのカラーサイエンスを両立できる。
特に複数台のカメラを使用するプロダクションでは、REDカメラとNikon ZRの色合わせが容易になる可能性がある。
メインカメラとしてV-RAPTOR [X]、サブカメラやジンバル用としてZRを使用するといった構成も、これまで以上に現実的になる。
Ver.2.00では、H.265 Log撮影時に高感度ノイズ低減の強度を選択できる機能も追加される予定だ。
一見すると地味な機能だが、カラーグレーディングを前提とする撮影では重要なポイントになる。
カメラ内部で強いノイズリダクションが適用されると、ノイズだけでなく微細なディテールや肌の質感まで失われる場合がある。
逆に、撮影時にはできるだけ素材を残し、ポストプロダクションでノイズリダクションを処理したいという映像制作者も多い。
ノイズ低減の強度を撮影者側で調整できるようになれば、作品や現場に応じた素材作りがしやすくなる。
ZRのRAW収録に関する操作性も改善される。
Ver.2.00では、R3D NE形式で動画を記録している最中でもフォーカスピーキング表示が使用可能になる予定だ。
フォーカスピーキングは、ピントが合っている部分の輪郭を色付きで表示する機能。
マニュアルフォーカスレンズやシネマレンズを使用する際には、非常に重要なフォーカスアシストとなる。
特に今回発表されたNIKKOR Z CINEMAのようなレンズを使う場合、AFだけでなくMFによるフォーカス操作も想定される。
RAW収録中でもピーキングを利用できるようになることで、ZRをシネマカメラとして運用する際の基本的な操作性が改善される。
さらにRED側の撮影環境との統合も進む。
REDは「RED CONTROL」および「RED CONTROL PRO」をアップデートし、Nikon ZRのリモートコントロールに対応する予定だ。
RED CONTROLは、REDカメラをスマートフォンやタブレットなどから遠隔操作するためのアプリ。
カメラ設定の変更や収録操作などをリモートで行える。
ZRがRED CONTROLに対応すれば、REDカメラとNikon ZRを混在させた撮影現場でも、操作環境を統一できる可能性がある。
特に、
・ジンバル撮影
・車載撮影
・クレーン撮影
・狭い場所への固定カメラ設置
・マルチカメラ撮影
といった、本体へ直接アクセスしにくい状況では大きなメリットになる。

そして今回の発表で、多くの映像クリエイターが注目する機能がオープンゲート記録だろう。
NikonはVer.2.00とは別に、ZRに対するさらなる機能追加を計画しており、2027年のファームウェアでオープンゲート動画記録への対応を目指している。
オープンゲートとは、センサーの横幅だけでなく縦方向も含め、可能な限り広いエリアを使用して映像を記録する方式。
通常の16:9撮影ではセンサー上下の一部を使用しないケースがあるが、オープンゲートではより広いセンサー領域を記録できる。
近年、映像制作現場ではオープンゲートへの需要が急速に高まっている。
オープンゲートが注目される理由の一つが、SNS向け動画との相性だ。
現在の映像制作では、
YouTube向け16:9、
Instagram ReelsやTikTok向け9:16、
Instagramフィード向け4:5、
と、一つの撮影素材を複数フォーマットへ展開するケースが増えている。
16:9だけで撮影すると、そこから9:16を切り出した際に使用できる画角が大幅に狭くなる。
一方、オープンゲートで縦方向まで広く撮影しておけば、ポストプロダクションで複数のアスペクト比へ再構成しやすい。
企業案件や広告制作、SNSコンテンツ制作では非常に実用的な機能だ。
オープンゲートはアナモルフィックレンズとの相性も良い。
アナモルフィックレンズでは、水平方向に圧縮した映像をセンサーへ記録し、編集時やモニター表示時に横方向へ引き伸ばして使用する。
オープンゲートを使用することでセンサーの縦方向をより広く使用できるため、アナモルフィックレンズの特性を生かしやすい。
Nikonは2027年のアップデートで、アナモルフィックレンズ使用時のデスクイーズ表示にも対応する予定だ。
デスクイーズ表示が利用できれば、圧縮された映像を撮影中に正しい比率へ戻して確認できる。
外部モニターなしでもフレーミングを確認しやすくなり、ZR単体でのシネマ撮影環境がさらに完成に近づく。
今回のアップデート群を見ていると、NikonがZRをどの方向へ進化させようとしているかが分かりやすい。
単純に高画質な動画を撮れるカメラではなく、
RAW
カラーサイエンス
シネマレンズ
リモート操作
オープンゲート
アナモルフィック
まで含めた、本格的な映像制作システムへ近づけようとしている。
これはNikonにとって大きな変化だ。
これまでNikonはZ9やZ8を中心に動画性能を強化してきたが、基本的には静止画と動画の両方を撮影できるハイブリッドカメラという立ち位置だった。
REDとの協業が進むことで、そこから明確にシネマ領域へ踏み込もうとしている。
NikonとREDの統合によるメリットは、Nikonユーザーだけにあるわけではない。
REDユーザーにとっても、NIKKOR Z CINEMAの登場によってNikonの光学技術やAF技術を利用できる可能性が広がる。
一方、NikonユーザーはREDのRAWフォーマットやカラーサイエンス、シネマ制作のノウハウを利用できる。
つまり両社の統合は、単純な「NikonがREDの技術を使う」という関係ではなく、双方のエコシステムを近づける動きと見ることができる。
今後、NIKKOR Z CINEMAシリーズの焦点距離構成や価格、発売時期が明らかになれば、さらに具体的なシステム像が見えてきそうだ。
今回発表された内容には、まだ明らかになっていない部分も多い。
特に注目したいのは、
NIKKOR Z CINEMA残り8本の焦点距離
だ。
50mm T1.9 VVを中心に、どのようなラインアップが構成されるのか。
一般的なシネマプライムセットであれば、広角から望遠まで焦点距離を一定間隔で揃える可能性が高い。
また、
・価格
・重量
・フォーカスリングの回転角
・ギア位置
・フィルター径
・レンズ間の重量バランス
・AF性能
・フォーカスブリージング
・色味の統一
なども、シネマレンズとしては重要なポイントになる。
特に9本すべてでレンズ径やギア位置などを揃えてくるのであれば、マットボックスやフォローフォーカスを交換せずに運用しやすくなる。
このあたりは実際の撮影現場での評価を大きく左右するだろう。
今回の動きは、シネマカメラ市場全体で見ても興味深い。
SonyはCinema LineとしてVENICE、BURANO、FXシリーズを展開。
CanonもCinema EOSを長年展開している。
Blackmagic DesignはURSA CineやPYXIS、Blackmagic Cinema Cameraなどを通じて、比較的低価格帯からハイエンドまで幅広い映像制作市場をカバーしている。
そこへNikonがREDと組んで本格参入する。
Nikon単独ではこれまで持っていなかったデジタルシネマのブランド力とノウハウを、REDとの統合によって一気に補える可能性がある。
さらにNikonはレンズメーカーでもある。
カメラ、レンズ、RAW、カラーサイエンスまで自社グループ内で開発できることは、大きな強みになり得る。
2026年9月8日に発表された「NIKKOR Z CINEMA T1.9 VV」とNikon ZRのアップデートは、NikonとREDの統合が本格的な製品フェーズへ移行したことを示す内容となった。
NIKKOR Z CINEMAは計9本を予定し、NIKKORとして初めてV-RAPTOR [X]のVVセンサーをカバーする。
さらに高精度AFも搭載予定だ。
ZRではファームウェアVer.2.00により、H.265でLog3G10/REDWideGamutRGBへ対応するほか、R3D NE記録時のフォーカスピーキングやRED CONTROLとの連携などが追加される。
さらに2027年にはオープンゲート記録とアナモルフィック向けデスクイーズ表示も予定されている。
これらを一つずつ見れば、それぞれはカメラやレンズの機能追加に見える。
しかし全体を俯瞰すると、
Nikonのレンズ技術とAF
REDのRAWとカラーサイエンス
Zマウント
VVフォーマット
RED CONTROL
という複数の要素が、一つの映像制作エコシステムへ統合され始めていることが分かる。
NikonによるRED買収から約2年。
その狙いがようやく具体的な製品として見える段階に入った。
今後NIKKOR Z CINEMAの全ラインアップが明らかになり、ZRのオープンゲートやアナモルフィック対応が実装されれば、Nikonはこれまで以上に本格的なシネマ制作市場で存在感を高めることになりそうだ。
Nikon×REDの本当のスタートは、むしろここからと言っていいだろう。
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